薬物依存

・虐待や不適切な養育が生じている事例において、親に薬物使用の問題が疑われることも多いです。親の薬物使用・依存の問題を見逃さないために、適切なアセスメントを通じてその可能性を精査する必要があります。

・親が薬物使用や依存症の問題を抱える事例では、子どもが行動上の問題や情緒面での問題をもつ確率が高まるだけでなく、虐待が重症化しやすいといわれています。
→子どもの心身の状態について適切なアセスメントを行い、必要に応じて適切な心理教育や支援を行うことが必要です。
→親を依存症治療につなげることが必要です。

親の薬物依存症と児童虐待に関する疫学

 養育者の薬物乱用や依存症は、アルコール依存症と同様に、子ども虐待のリスク因子として知られています。薬物依存症のない事例で中等度以上の虐待があった事例は30%にとどまっていたのに対し、養育者が薬物依存症を抱えている事例では、50%以上が中等度以上の重症度であり、虐待が重症化することが明らかにされています。また、このような問題を抱える養育者を親にもつ子どもの場合は、そうでない場合に比べて、子どもの多動や落ち着きのなさ、非社会的行動、反社会的行動が見られる確率が2倍高く、自殺念慮を抱く確率も9倍高くなることも知られています。

 さらに、児童相談所通告事例を分析した結果からは、薬物依存症を抱える養育者が、そうでない親に比べて、社会的な孤立、ひとり親家庭、育児疲れ、不安定な就労、経済的問題、生活保護の受給、DVの被害や養育者自身の被虐待体験、心身の問題などのリスク要因を持つ場合が有意に多いことが明らかにされています。

養育者が薬物依存問題を有することで子どもに生じうるさまざまなリスク

身体的虐待:子どもが、養育者の依存物質へのアクセスの障壁となってしまう等の状況により、子どもに攻撃的に関わるリスクが高まってしまうことがあります。

ネグレクトやこれに伴う心理的虐待:養育者が依存物質に囚われて、子どものケアが後回し、あるいは、ないがしろにされてしまうことがあります。

支援のポイント

【子どもへの支援】

・子どもが親の問題を理解できるように適切な心理教育を行うことで改善する場合があります。

・子どもの行動や精神面において不安定なケースが見られる場合は、子どもが安心して生活できるように関わることが重要です。

【養育者への支援】

<養育者が薬物依存の問題を抱えている場合>
養育者に違法薬物や処方薬への依存があるとき場合、継続的な支援が必要です。薬物依存の問題を抱える養育者が治療を受けることは原則ではありますが、一時的に回復したとしても再発する事例は多いことを念頭においた対応が必要となります。なお、親子の分離については、虐待の程度とパートナーや周囲の大人の養育力に基づいて判断することが必要です。

・薬物使用に伴う養育者の脳機能の荒廃が想定される場合には、分離を優先して検討しなければなりません。

<養育者のパートナーが薬物依存の問題を抱えている場合>
養育者が、依存症を抱えるパートナーと別居して子どもを守ることができる場合には、分離が必要ない場合もありますが、パートナー間の共依存関係を念頭に入れる必要があり、パートナーへの支援が必要となります。また、養育者と依存症を抱えるパートナーが、再び一緒に生活する可能性を視野に入れた支援をする必要があります。

・養育者あるいは養育者のパートナーが薬物依存の問題を抱えている事例の支援では、依存症を抱える養育者やその家族に対して依存症の心理教育を行うと共に、保健機関、医療機関、警察、福祉事務所などと相談しながら、連携協働した対応が必要です。特に、保健・医療機関では、近年、本人を対象とした集団認知行動療法に基づく薬物依存回復プログラムや、家族を対象とした家族教室を行う施設が増えてきていますので、このようなプログラムへの参加を促すことは、薬物依存からの回復支援に有益であると考えられます。

参考文献

子ども虐待対応の手引き http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/dv/dl/120502_11.pdf

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