性的問題行動
・子どもの性的行動を見たら通常の発達段階に見られる性的行動か、性的問題行動化を見分ける必要があります。
・子どもの性的問題行動は早期に発見し、適切に対処すれば再発率はとても少ないことが海外の多くの研究で実証されています。
・性的問題行動の背景要因となる、不適切な性的情報に触れる機会や、虐待、いじめの有無とその内容、子どもの脆弱性などを十分アセスメントし、子どもに合った治療教育や性教育などを行うことが重要です。
性的問題行動とは
性的問題行動とは、「子どもの発達段階にそぐわない性的行動。自分自身や他の人を傷つける可能性のある方法で、身体の性的な部分(すなわち性器、肛門や胸)に触れる、触れさせる、見る、見せるなどの行動のこと」を指します。
性的問題行動には、以下の特徴があります。
・発達的に期待されるより頻度が多かったり持続時間が長かったりする(例えば、回数が多すぎる、長すぎるマスターベーションなど)
・通常の注意や叱責では減少しない
・相手の子どもや他の人を傷つける
・他の子どもに恐怖や不安をもたらす
このうち、
・同意がない(お互いに性的行動の意味がわかったうえでの同意が必要です)
・対等な関係に基づかない(年齢、体格、発達段階、知的能力等の差がある)
・強要される(おどし、暴力、お菓子をあげるなどのわいろを用いる等)
の要素があり、被害者があるものは、性加害(性暴力)と呼ぶこともあります。
通常の発達で見られる健康な性的行動
性的問題行動のほかに、子どもの発達の過程の中でみられる通常の性的な行動があり、それらと性的問題行動・性加害とを区別する視点が大切になります。
子どもの通常の発達でみられる性的な行動は以下のとおりです。
・子どもらしい探索の一環である:異性の体の違いへの興味など。小学校低学年までくらいの子どもで異性に興味を持ちお互いにおどしなどはない中で見せあいっこをするなど)
・子どもたちすべてが自発的である(例、お医者さんごっこなど)
・おどしや強制がない
・たまに起こるもの(持続的でない)
・年齢や体格、発達段階が同程度である
・怒りや恐怖、強い不安などの感情を体験しない
このように、子どもの性的問題行動を考えるときには、子どもの自然で健康な性の発達についての知識が必要です。
性的行動は多くの子どもの正常な発達過程にみられるものでもあります。そのため、健康な性的行動と、性的問題行動を見極めることが大切になります。上記のような基準で検討し、性的問題行動・性加害であると判断した場合もただ叱責するのではなく、なぜ性的問題行動を起こしたのか、子ども自身の特性やその背景要因、環境を考え、子どもに必要な支援・治療や性教育などを、保護者とともに支援機関等に通いながら行う必要があります。
子どもの性的問題行動の背景要因と予後
子どもの性的問題行動の背景要因としては、米国のフリードリヒによる2000人以上の大規模研究があります。フリードリヒによる調査では、子どもの性的問題行動の背景要因として、①子どもの脆弱性、②威圧や強制のモデリング、③セクシュアリティのモデリング、④複合的な家族の逆境環境の4つであることが実証されています。
また、子どもの性的問題行動の予後についても、海外で多くの研究がされており、早期に発見して、適切な治療教育や支援をすれば、その後の性的問題行動の再発はとても少ないこともわかっています。米国オクラホマ大学の研究では、性的問題行動を起こした12歳以下の子どもが10年後に性犯罪や性的虐待で逮捕されたり、児童相談所などに通告を受けたのは2%に過ぎません。したがって、性的問題行動を起こした子どもを性犯罪者と同様とみなして一様に社会から隔離したりすることは不適切であり、保護者が適切に監護できるのであれば、在宅で、保護者と一緒に通ってもらいながら、子どもが理解できる、子どもに適した治療教育を子どもと保護者に行うのが適切であると言われています。
子どもの性的問題行動について相談を受けたら
子どもの性的問題行動についての相談を受けた場合には、まず、子どもと保護者に別々に面接し、誰に、どんな性的問題行動をしたのか、その行動を起こしたきっかけや背景要因は何か、不適切な性的情報を見たり聞いたりしていないか、子どもが身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待などを受けていないか、性的虐待や性被害を受けたことがないか、いじめなどの被害体験はないか、知的な遅れや、発達障害などの子ども自身の脆弱性がないかなどの背景要因を丁寧にアセスメントすることが重要です。子どもはメディアなどで不適切な性行為を見て誤って学習してしまったり、人とのかかわり方を誤って性的な行動をしてしまったり、中には自分が性被害にあって、同じことをしてしまう場合も多いです。身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待を受けた子どもの中には愛着の問題があり、不適切な関わり方の一つとして、他の子どもの性的を触ったりする子どももいます。
このように性的問題行動を起こす子どもの背景要因は様々であり、いくつもの背景要因があってその結果、性的問題行動を起こす子どももいるのです。そのため、子どもの性的問題行動はその背景要因を丁寧にアセスメントし、子どもに見合った治療教育や性教育などの支援を行う必要があります。その際に、子どもと保護者の双方への介入が必要であり、保護者にも子どもの背景要因を説明し、子どもにどんな支援が必要かを理解してもらい、協力してもらうことが大切です。
子どもの性的問題行動は、丁寧なアセスメントのもとに適切に対応すれば予後がよいことも言われています。見つけた時には、注意叱責のみで終わらせず、きちんと対応することが、その後の性被害をも防ぐ大切な対応となります。治療教育で参考にするテキストも出版されていますので、参考にしてみてください。
参考文献
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・ティモシー・J・カーン著、藤岡淳子監訳(2009):回復への道のり―ロードマップ― 誠信書房
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