ネグレクト

・ネグレクトには「適切なケア(衣食住/清潔/医療/教育、等)を与えないこと」と「監視の欠如」があります

・保護者の意図の有無に関わらず、子どもの視点に立ったネグレクトの認識が重要です

・ネグレクトは、身体的・精神的・社会的発達に様々な影響を与えます

ネグレクトとは

児童虐待において、いわゆる「虐待(Abuse)」とは何らかの誤った行為を実施すること(Commission)を指します。例えば、身体的虐待は暴行する・火傷をさせる等、心理的虐待では暴言をあびせる・脅迫する・差別する、性的虐待では性的行為をする・させる・見せる等があります。

一方、「ネグレクト(Neglect)」はAbuseの対極にある概念であり、何らかの必要な行為を怠ること(Ommission)を指します。衣食住が不十分である・住環境が悪い・適切な医療や教育を受けさせない等、「適切なケア」が子どもに与えられていない状態をネグレクト(身体的ネグレクト、医療ネグレクト等とも呼ぶ)と言います。さらに、子どもの成長発達にとって必要である「適切な関わり」が不足すること、例えば、声をかける・愛情を注ぐ・反応する・共感する等が不足した状態も、ネグレクト(情緒的ネグレクトとも呼ぶ)に当てはまります。また、子どもを見守る体制が不十分であることもネグレクトに当てはまり、これを監視の欠如(Lack of supervision)と言われています。例えば、危険な水場で子どもだけで遊ばせる・暑い夏の日に車内に子どもを放置する・養育困難な人に子どもを預ける、等が挙げられ、不慮の事故には監視の欠如に伴うネグレクトの状態が含まれている可能性があります。

ネグレクトによる子どもの発達への影響

ネグレクトは、短期的にまたは長期的に、身体的・精神的・社会的な発達に影響を与えることが知られています。特に乳幼児期におけるネグレクトでは、極度の低体重や低栄養状態となる非器質的発育障害、認知機能や言語発達の遅れを認めたり、保護者との愛着形成が不十分である場合には他者に対して過度に警戒したり、過度に愛着を示すという反応性愛着障害を生じます。

また、乳児期にネグレクトを経験した子どもが、学童期により攻撃性を示すなど、長期的にも影響を及ぼすことが報告されています。早期にネグレクトされている子ども、つまり「適切なケアや関わりが不足している、安全でない環境にいる」子どもを発見し、家族のニーズに合わせて介入をしていくことで、その後長期的に健全な成長発達を支援していくことが必要です。

介入時のポイント

「実施されなかった行為や関わり/監視の欠如」であるネグレクトは、保護者の子どもに対する愛着が乏しいことから意図的に行われる場合と、子どもに対して配慮する余裕がないような保護者の心身の状態や知識不足などによって意図せずにされている場合もあります。子どもに関わる支援者にとって重要なことは、保護者の意図の有無にかかわらず、子ども側の置かれた立場や視点に立ち、「子どもにとって安全ではなく、不適切な状態である(かもしれない)」状況においては、子どもの利益を大切にしながら、家族を支援していくことが重要です。

参考文献

坂井聖二(著)「子ども虐待への挑戦〜医療、福祉、心理、司法の連携を目指して」2013年.誠信書房

Hildyard KL, Wolfe DA. Child neglect: developmental issues and outcomes. Child Abuse Negl. 2002 Jun;26(6-7):679-95.

Kotch JB, et al. Importance of early neglect for childhood aggression. Pediatrics. 2008 Apr;121(4):725-31. doi: 10.1542/peds.2006-3622.

カテゴリー:

タグ: なし